「雪名ちゃんには、変なものが見えてると思う。あれね、呪霊っていって呪いが形になったものなんだよ」
そんな投げやりな言葉こそが最古の記憶。
同時に――あ、これ呪術廻戦の世界観だなと。(おそらく)前世の記憶を取り戻した瞬間の記憶でもあった。
「呪いって分かる? まだ分かんないよねぇ。誰かや何かが憎いとか嫌いとか、そういうよくない感情を持って、神さまや仏様に祈ってどうこうしてもらおうっていう……。いかにも他力本願な考えで相手に害なそうとする……って、これも難しいよなぁ。なんて言ったらいいんだろ」
続く投げやりな解説を聞くうちに、どんどんと確信が募っていく。それと同時に、これは三歳児に聞かせる内容じゃあねえなと、自我も目覚めていった。
これが要するに転生したものの特典か?
人生二週目ボーナス? ってことは強くてニューゲーム。無双できるかも。
「まあとにかく、うちは代々そういうのが見えるし、払える力を持った家系でね。つまるところ、」
「じゅじゅつしなの?」
「そうじゅじゅちゅ……って、……え?」
「ごたくはいいよ。ねえおとうさん、どんなじゅつしきなの?」
まずは術式の把握。それによっては今後のルートが決まってくる。
目をさらにして問いかける幼子に、今世の父(勝己、34歳)はぽかんとして口をつぐんだ。
「え、なんかいきなりキャラ変わってない……? もしかして術式覚醒した? だとしたら納得」
「いや、そのじゅつしきがよくわかんない。だからおしえて」
「やば、もしかしたらこの子天才かも。まあ、うちの術式は女性の方が使いこなせるからなぁ、不思議はないか。それならもう、これより先は父と子ではなく、師と弟子の関係だ。雪名、よく聞きなさい」
この日。
私は三歳にして鮮烈な呪術師見習いとして、デビューを果たした次第である。
片田舎の呪術師として二週目の人生をスタートさせたはいいものの、その術式はとにかく扱いづらかった。軽く詰んだ。無双とかなし。
ありていにいえば――。
我が家系に伝わるのは、因果律を観測し干渉するという術式だ。
ここで疑問に上がるのが、因果律への干渉とはなにかということ。
要するに、人間でいうならその人の「過去」と「未来」が見えるのだ。
それに干渉するというのは――未来の書き換えができるということ。無論代償は、明確に存在する。
未来へ与えうる影響によって代償の程度は変わり、軽いものだと指先のしびれが数分。影響の大きな因果律(見ればすぐに分かる。ぶっとくて強そう)に干渉すると、即死不可避。
そう。もはや呪術などとは似ても似つかない。神の領域に踏み込んだ術式だ。
それゆえ、今は昔――かつては帝にお仕えする「星見の一族」に偽装していたという歴史がある。
どういうことか。
つまり、天体の動きを見て占います、という人畜無害な学者一派を装いながら、実際に観測していたのは、様々な事物・事象の因果律。時として因果律に干渉し、陰ながら帝をお支え申し上げていたという。
それって影の権力者じゃん! とテンションが上がったのもつかの間。
実際には帝との間に厳格な取り決めがあって、まずは、政治利用はしないとか。天皇家や国家を揺るがす大事件でもない限り、因果律の干渉は決して行わなかったとか。
基本的には、国家の安寧と帝の健やかなハッピーライフのために存在する、「よく当たる占い屋」くらいの立ち位置だったらしい。超地味、だが味があってよし。
しかも、明治維新に際して、時の当主が、
「世間も文明開化一色だなー。もう星見とか時代遅れなので、一般人になります」
と華麗に役目を辞して野に下ったという。
そうして在野のよく当たる占い師は、術式が呪霊討伐にも使えると知って、名もなき呪術師として陰ながら活躍した、と。
ちなみに――。
因果律を観測し干渉するという術式が、なぜ呪霊の祓除に応用できるかというと。
呪霊にも当然、因果律が存在するからだ。
因果律に干渉するということは、それを断ち切ることも可能だ。
未来志向に出来ている「生命」の因果律に干渉すると、未来への影響が大きくなるのは先述の通り。
切ろうと思えば切れる、相手も殺せる。そして自分も死ぬ。だから不倶戴天の敵でも、絶対切らない。
しかし呪霊は未来志向に出来ていない、過去の遺物だ。
弱い呪霊や、まだ生まれたての呪霊ならば、ほとんど代償なしでその因果律を断ち切ることができる。これは使えると、ご先祖様は踏んだらしい。
権力中枢に近いところで、人の恨みつらみや憎悪に怨嗟――いろんなものを見て聞いて心を痛めてきたご先祖様だ。呪霊に苦しむ人々を救わんとして、呪術師として生きる道を選んだという。
つくづく、心の清い一族だと思う。
しかしその正しい心こそが、この術式を維持し続けられた所以だとか。
あるいは、チートすぎる能力を持っているがゆえの、ノブレスオブリージュというか。そういった高潔な精神は、軽薄極まりない父の代にもまだ、強く根付いているらしい。
ゆえに父もまた、呪術師として世のため人のため、粉骨砕身しているわけだ。
以上、遠野一族のルーツと術式説明、終わり。
扱いづらいとは思ったものの、チートであることには変わりない。
もしかしたら自分の手で、最悪の未来を回避できるかもしれない。
物語の要点は抑えている。それならば、事前に対処できることはいくらでもある。あるはずだ。
――うまく使いこなせると思っていた、この術式。
のちに自身を苦しめることになろうとは……この時の私はまだ、予想だにしていなかった。
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