恥の多い生涯を送って来ました……。
ミーケさんを前に、私は正座してこれまでのあらゆる悪行を悔い、懺悔した。
呪力操作でチートして、町内の相撲大会に勝ったこと。
こっそり呪霊討伐の謝礼をもらって、欲しかった漫画を大人買いしたこと。
父との喧嘩でむかついて、母に父の送金だけ止めてもらったこと。
そうして――夏油少年のおろしたての制服に、ゲボってしまったこと。
白いシャツの前をはだけさせようとした、その瞬間。
『雪名、入るぞ』
低くつややかな男性の声が聞こえて、秒でミーケさんを隠した。脱ぐ前でよかった、先生があらぬ誤解を受けるところだった。
ベッドの上で正座したまま迎えたのは、夜蛾正道先生。この当時はまだ呪術高専東京校の、一担任教師。
「……大丈夫か?」
先生は正座した私に不思議そうな表情になったが、私はつとめて業務用の笑みで対応する。
「あの、……はい。休んだら幾分、元気になりました」
「そうか。その……入学式は、残念だったが……」
どこまでも言いにくそうに、先生は言う。
私が入学式に出られなかったことなど、どうでもいい。
問題は、夏油少年がノー学ランという恰好で入学式に臨まなければならなかったこと。しかも……きっと、すっぱいゲロの臭いを纏わせて。
思い出すと、いきおい腹を掻っ捌いて、お詫びしたくなるというもの。
「すみません……。あの、彼……前髪の。大丈夫ですか?」
「傑か? ああ、……それは、まあ。大丈夫、……だと、思う」
「……本当に申し訳ない……」
うなだれる私に、夜蛾先生は気を落とすな、と温かい言葉をくれる。
「間違いは誰にだってある。肝心なのは、繰り返さないことだ」
「もう二度と……他人に向かってゲロは吐きたくありません。吐きません。誓います」
「体調が戻ったなら、教室に行くか?」
「……投石も受け入れる覚悟です。刺されたって文句は言えない。多少はその、反転術式の心得もありますので……あ、でも治さないのが正義か……」
「いや、傑もそんなことはしないと思うぞ?! とにかく、行こう。みんな待ってる」
「はい……。ええ、征きます。たとえそこが死地であろうと……」
独特な子だな、という先生のつぶやきは甘んじて受け入れる。
かくして私は教室という死地へ足を踏み入れ、
「おおー、ゲロ女だ」
五条悟の心無い、しかし証拠歴然の事実というちくちく言葉を浴び、
「悟、……そういう言い方はよせ」
夏油傑のやるせない気遣いの言葉に、後ろめたさMAX。
……紅一点の家入女史はというと、「ふーん、あれが」みたいな顔つきでまじまじとこちらを見ているという、手厚い歓迎を受けたのだった。
「はい……ゲロ女です……。本当に申し訳ありません……生きててすみませんでした……」
悄然と詫びた私に、いや、と夏油少年は顔をひきつらせた。
さすがの彼でも、入学初日のゲロシャワーをにこやかに許せはしないだろう。致し方なし。
「雪名、自己紹介を」
苦り切った様子の先生に促されて、ああ……と私はよろけながら教壇の前に立つ。
五条悟、夏油傑、家入硝子。……これから私がともに学ぶ、頼もしい仲間たち。
数時間前に感じた期待も希望もわくわくも、この時点ではすっかりと消沈し、重い現実だけが私を苛んだ。
「遠野雪名と申します。……皆さんにご迷惑をかけぬよう、これからは胃を空にして臨みますので、なにとぞよろしくお願いいたしまァす!!」
ゲロ吐くなよーという茶化しの声も、悟……という気まずい声も、ちょっと面白がるような視線も、なんとも言えない憐みの雰囲気も。
すべて飲み込み、最悪の入学式は終わりをつげた。
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