夢を、見ていた。またぞろ髭切がいる。
「どうしたんだい、主」
夢の中の髭切が問う。
その手には抜身の本体が握られていて、刀身からは夥しいほどの血を滴らせている。血に濡れた刀身は、闇夜にも不自然なほどにぎらぎらと光って怪しい。
血潮の滴る刀身の下に、何かが横たわっているのが見えた。
血。肉塊。臓物の破片。
戦いに慣れた審神者にとり、それはさほど心を動かすものではなかったが――それでもこの時、彼女は明確に思った。怖いと。
何故だかそれら不浄のものが、とてつもなく見慣れたもののように思えてならなかったのだ。
見慣れたもの。
どうしてそう思うか分からない。既にそれは原型をとどめず、何が何だかわからないというのに。
ただ一つ言えるとしたら、恐らく元は人型を取っていたかもしれないということ。それしか分からないくせに、異様なほどの恐怖を感じさせるのだった。
怖かった。
髭切が何を思ってそんなことをしているのか分からない。否、敵に対してそうしているというのならば、まだ理解できる。敵を屠ったというのなら。しかし……その肉塊が「見慣れた」ものであるというのなら。もしもそれが。
「ねえ、主」
髭切が笑う。
「こっちにおいでよ」
手招きをした。
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