眠れば夢を見る。それはもう何度となく繰り返したことだった。
始まってからすでに一月は越した。
一月も眠れない日々が続いているということに気づいて、審神者はぞっとした。これはいよいよ、精神がおかしくなる兆しやもしれぬ。
絶望を感じた時――あの夢に陥る感覚がやってきた。
審神者は暗いところにいる。
そこは恐らく執務室か、はたまたその前の廊下。
腰かけて庭を眺めている。まるで夜の闇のように真っ黒なのに、不思議と周囲の光景が見える。
庭先に立つ、髭切の姿までも。
いつもと違うことと言えば、
「っ……な、んで」
髭切がこちらに向かって歩いてくる、ということだろうか。
それまで遠すぎるほどの距離に居たはずの髭切は、庭石を踏みつけながらこちらへと歩み寄ってきた。
怖い。
そう思った瞬間、髭切はまるでこちらの考えを読んだように、
「抜身のままでは怖がらせてしまうね」
ごめんごめんと謝りながら納刀した。
しかし審神者はそれどころではない。
髭切がやってくる。
白い装束は血に汚れて、不快なほどの血臭を漂わせて。(これは本当に夢か?)相変わらず穏やか過ぎるほどに穏やかな笑みを浮かべて。
もう、目と鼻の先。手を伸ばせば近づく。
ああ、そして――審神者のとんと目の前に。
逃げられない。
ここに一秒たりともいたくないというのに、身体が動かない。縁側に腰掛けて馬鹿みたいに固まった審神者を、髭切は見下ろしている。
審神者は見上げる。……しかし、見上げた先にあるはずの髭切の顔は、驚くほどに暗い。
否、塗りつぶされたように黒い。表情が読めない。
「ねえ、主」
髭切が口を開いた。
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