百夜通いに足りぬ - 6/8

「主さん、大丈夫か?」

 今度はそんな声で起こされた。
 目を開ける。開けたはずなのに、一枚幕を張ったようにぼやけてよく見えない。

「主さん泣いてるのか? どこか痛いのか?」

 心配そうにのぞきこんできたのは、真っ赤な色彩。そしてその次には、黄色、そうしてやけに印象に残る愛染明王。

「あ……い、ぜん」
「おう、愛染国俊だ。主さん、中々起きてこないから心配で部屋入っちまったぜ。大丈夫か? 最近あんまり眠れてないんだろ? 休んだほうがいいんじゃないか?」

 確か愛染は今日の近侍であった。
 時間になっても起きてこない主を心配して、見に来てくれたらしい。
 何故だか、愛染の触れたところが泣きたいほどに温かいような――。
 審神者は腕を伸ばすと、愛染の首の後ろに手を回し、力をかけて布団の中へと引きずり込んだ。

「えっ、主さんどうした?!」
「ごめん、……暫くここにいて。あともうちょっと寝かせて」

 そう言った審神者が、再び寝息を立て始めるまでそう長らくはかからなかった。
 愛染は何がなんだか分からないながらも、近頃の主の不調は理解しており、仕方ないと納得している。
 ――何故だか、審神者は思った。愛染の側ならよく眠れると。

送信中です

×

※コメントは最大10000文字、100回まで送信できます

送信中です送信しました!