夏油傑離反回避ルートに入ります。 -8- - 2/5

 学長室で任務の報告を終えて、出る時だった。
 デカい白いのが視界をふさいだと思ったら――五条悟だった。

「よ」
「うす」

 片手をあげて横をすり抜けようとすると、奴が動く。じゃあ、反対側。奴も動く。立派な進行方向妨害だ。
 なんだよ、と思って顔を上げると、彼はたまらなくニヤついた顔つきで見下ろしていた。これは十割の確率でろくでもない展開。
 しかめっつらで退いてと一言言うと、五条は道を譲らぬまま、

「最近『夫婦』で任務、多いじゃん」

 などとのたまいやがった。
 至近距離で見た五条悟は、入学当時よりもぐっと背が伸び――そこにあの頃あったあどけなさは減って、精悍な顔立ちになっている。のに、中身はまるで変らない。

「……はぁ~ん、なるほど。夏油君取られて悔しいんだ」
「べっつにー。俺は俺に出来る任務、割り振られてるだけだし」
「へぇ~、そう。ま、君はお一人でどうぞ。私は夏油君と、高専が誇る最強コンビ目指してやるからさ」

 ポンと肩を叩いてそのわきをすり抜けようとすると、彼は面白くない表情でさらに進行を妨害する。邪魔すぎる。図体でかすぎ。

「まだなにか?」
「お前……。気づいてねえかも知れねえけど、」

 どこか深刻そうに五条が言う。
 何か気づいたのか、何か。それがいい方向であればいいのだが、

「傑、巨乳好きだぜ? もっといろいろ肉つけねぇと、すぐにもっと色っぽい女に、」
「……バカ。ホンット馬鹿」

 聞く価値なし。憂さ晴らしにカーフキックをかまして、本格的に学長室を後にした。

 ――とはいえ、彼のいうこともあながち間違いでないのが、なんとも言い難いところ。
 
 もともと――。夏油傑という人間について考える。
 顔が良い。性格は穏やかで目端が利く。異性からはもちろん、同性からもモテる。つまり、『色々と』慣れている人だ。
 これまでもそう感じることはあったが、近頃は特に――距離が近い。
 たとえば、任務前。
 渡された資料を読んでいる時、

「どう?」

 なんて、何気なく彼が覗き込んでくるような場面。肩が少し触れる。彼の匂いが、意識せずとも分かる距離。
 そっと資料を渡すと、手に取って読み始める。そこから一歩下がると、彼は別に追わない。それで、終わり。
 けれどもこういうことが、よくある気がする。
 あるいは――。

 高専の外、歩道のあたりで話している時。
 授業で納得のいかなかった部分について力説していると、ぐっと肩をつかまれて引き寄せられたことがあった。
 一体何事だと驚くと、そのすぐ後に、私がいたところを猛スピードで自転車が通り抜けていった。

「危ないね。ここ、歩道なのに」

 彼はそう言って手を外した。
 自転車とぶつかりそうだったから、保護してくれた。それだけのことだが、なんとなく――今まではそういうことは、なかった気がする。
 一緒にいることが多いから、そういう場面が増えたのか。
 よく分からない。

 

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