学長室で任務の報告を終えて、出る時だった。
デカい白いのが視界をふさいだと思ったら――五条悟だった。
「よ」
「うす」
片手をあげて横をすり抜けようとすると、奴が動く。じゃあ、反対側。奴も動く。立派な進行方向妨害だ。
なんだよ、と思って顔を上げると、彼はたまらなくニヤついた顔つきで見下ろしていた。これは十割の確率でろくでもない展開。
しかめっつらで退いてと一言言うと、五条は道を譲らぬまま、
「最近『夫婦』で任務、多いじゃん」
などとのたまいやがった。
至近距離で見た五条悟は、入学当時よりもぐっと背が伸び――そこにあの頃あったあどけなさは減って、精悍な顔立ちになっている。のに、中身はまるで変らない。
「……はぁ~ん、なるほど。夏油君取られて悔しいんだ」
「べっつにー。俺は俺に出来る任務、割り振られてるだけだし」
「へぇ~、そう。ま、君はお一人でどうぞ。私は夏油君と、高専が誇る最強コンビ目指してやるからさ」
ポンと肩を叩いてそのわきをすり抜けようとすると、彼は面白くない表情でさらに進行を妨害する。邪魔すぎる。図体でかすぎ。
「まだなにか?」
「お前……。気づいてねえかも知れねえけど、」
どこか深刻そうに五条が言う。
何か気づいたのか、何か。それがいい方向であればいいのだが、
「傑、巨乳好きだぜ? もっといろいろ肉つけねぇと、すぐにもっと色っぽい女に、」
「……バカ。ホンット馬鹿」
聞く価値なし。憂さ晴らしにカーフキックをかまして、本格的に学長室を後にした。
――とはいえ、彼のいうこともあながち間違いでないのが、なんとも言い難いところ。
もともと――。夏油傑という人間について考える。
顔が良い。性格は穏やかで目端が利く。異性からはもちろん、同性からもモテる。つまり、『色々と』慣れている人だ。
これまでもそう感じることはあったが、近頃は特に――距離が近い。
たとえば、任務前。
渡された資料を読んでいる時、
「どう?」
なんて、何気なく彼が覗き込んでくるような場面。肩が少し触れる。彼の匂いが、意識せずとも分かる距離。
そっと資料を渡すと、手に取って読み始める。そこから一歩下がると、彼は別に追わない。それで、終わり。
けれどもこういうことが、よくある気がする。
あるいは――。
高専の外、歩道のあたりで話している時。
授業で納得のいかなかった部分について力説していると、ぐっと肩をつかまれて引き寄せられたことがあった。
一体何事だと驚くと、そのすぐ後に、私がいたところを猛スピードで自転車が通り抜けていった。
「危ないね。ここ、歩道なのに」
彼はそう言って手を外した。
自転車とぶつかりそうだったから、保護してくれた。それだけのことだが、なんとなく――今まではそういうことは、なかった気がする。
一緒にいることが多いから、そういう場面が増えたのか。
よく分からない。
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