「土地神絡みの任務ゥ~?」
夜蛾先生。次期学長ってんで、本格的にぼけたのかと思った。が、そうでもなかったらしい。
「これは七海からの情報なんだがな。確定ではないが、おそらくそう言ったものだろうと。判明しているらしい」
「なんでそんなもんが、二年なんかに」
「いや……。最初は被害状況から、低級呪霊の案件だと判断していたんだ。しかし、その……雪名が」
「は?」
「フィールドワークも大事だと、いろいろ調べさせたらしい。その結果、どうにもきな臭い方向に話が進んでいると」
「あ~あいつ好きだねぇ、そういうの」
先輩風ふかせて、あれこれあいつらに仕込んだってこと? ウケる。
「雪名がそう判断したなら、おそらく間違ってはいないだろう。土地神が絡んでいるとなると、雪名ひとりでは荷が重いかもしれない。……悟、頼めるか」
「彼奴のお守りってことっすね、りょーかい」
俺がすんなり納得して見せると、先生は一瞬変な顔になった。
「なんすか、その顔」
「いや……。お前がすんなり了承するとは、意外でな。もっとごねるかと思った」
いや、助かるんだが……。なんて先生は失礼なことをのたまいやがる。俺、そんなわがまま?
「まあ、あいつに恩売っとくのもいいっしょ」
「……なんでもいい。明日にでも向かってくれ。雪名が無茶をしないようにな」
――ってわけで、来た。
一言で言うと、最悪。
土地神って、結構強いじゃん。
まずもってサイズがでかい。しかも本体が水だから、変幻自在。核の部分にダメージを与えない限り、何度でも再生して襲ってくる。
確かに、あいつみたいにちまちまぶん殴って倒す小市民には、荷が重い相手だろう。
駆けつけた時、雪名は――ボロボロになっていた。
水の斬撃で、あっちこっち切れて。任務服はズタボロ。反転回してるのか致命傷はなさそうだが、それでも――呪霊の攻撃は、かなり適格に回避していた。
あいつ、あんな動けたのか。あんなに目、よかったのか。
いや、見て動いたようには見えない。まるで、あらかじめそこに攻撃が来るのが分かっているかのように。予測の域などとうに超えた――あれはまるで、未来視にも近い不自然さだ。
しかし、逃げるだけでは呪霊は払えない。そのうち消耗して、体が動か鳴るのが先だ。
六眼で見た雪名は――なんというか、気持ち悪かった。
正体不明の術式を使うとは、思っていたが。
今ではもう、線が絡まり合って訳わかんねえことになってて。しかも、その線がうっすらとほどけるように、消えかかっていた。雪名を構築する、線が。
はらはらとほどけて、薄れていく。線の色は、薄い金色。どこか神秘的で、けれども儚い。
それは今まで見た中で、どんな美術品や骨とう品よりも美しく――同時に、寒気がするほど、怖い光景だった。
――あいつ、消えるんじゃね?
そう思った瞬間、術式を発動していた。
間一髪。……っていうわけでは、なかったけれども。こっちの方が、かっこつくかと思ったからそう言った。
腕の中で、一瞬だけ雪名は目を開けた。
視線は交わっていたが、その瞳はどこまでも茫洋としていて。俺のことが見えたのかどうかは、分からない。
しかし、生気がなかった顔にゆっくりと――安堵の表情が浮かんで。あ、こいつ生きてるんだと、やっと実感できた。心から安堵した。
雪名は、泣いた。瞼にいっぱい涙をためて、しかしすぐに気を失った。
「お前でも泣くこととか、あるんだ」
意外そうに呟いたとき、異変に気付く。
こいつ……息、してるか?
口元に耳を当てるが、呼吸がほとんど聞こえない。胸も、上下していない。脈も――。ぐったりとした体が、どんどんと重くなっていくように感じた。さっきまで、あんなに軽かったのに。
ひやりと、背中に冷たいものが流れ込んだ。
――冗談じゃない。
そうしたとき、灰原と七海が走ってきた。
「五条さん、お疲れ様で、」
「っ硝子、……いや救急車呼べ! こいつ息してねえ!!」
すぐに地面に寝かせて、心臓マッサージを始めた。
これで本当にあってんのか? 強さ、こんな感じ? 場所、これでよかったか? 分からないけど、するしかない。学校でもしつこく練習させられたのに、その場になるとすべての知識が吹っ飛んだ。
無我夢中で、雪名の胸を押し続けた。永遠にも感じられる時間だった。
救急隊が駆けつけるまでそれを続け、あとはプロに任せた。
電気ショックをかけて、心臓は動き出したらしいが――意識は、戻らないままだった。
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