枷場菜々子と美々子が高専に保護された、という朗報。
私が知らされたのは、事件がすべて片付いたあと、硝子伝手にだった。
「ッ……げ、夏油君が、保護したの?」
「うん。夏油が夜蛾先生に報告して、上層部でも会議して、決まったんだって」
「えっじゃ……あっ、げ、夏油君は……?」
――ということは、きっと。それというのは、きっと。
「別の任務行ったけど」
不思議そうに返した硝子の言葉に、私はエアロバイクからけたたましく転がり落ちて――よかった……と安堵でうなだれた。
情報の断片をつなぎ合わせただけだから、この目で見るまで油断はできないが……。いや、目で見て闇落ちしたかどうかって分かるもんか?! ちょっと待って気になる! 夏油傑、お前どこ行った!!
「雪名、どこ行くの」
「ちょっと田んぼ見に!!」
「それ台風のときの死亡フラグ。落ち着けって」
無理矢理引きずり戻されて、私はぜーはーと荒く息を吐く。十日寝てただけでも、結構体ってしんどいもんだな。この失われた筋肉を取り戻すには、一体どうしたら……。
「なに焦ってんの?」
「いや……別に」
「焦ってるのは認めるんだ」
「っ……意地悪だなぁ硝子ちゃん……」
「心配かけすぎ」
そう言って硝子は、私の肩に顎を乗せた。え、なにこれ胸キュンイベント。
「説明」
耳元で、硝子が言う。
そろりと視線を移すと、目が合って。彼女はにこりと、取って付けたようなわざとらしい笑みを浮かべて、私の体に腕を回した。
抱擁というには、いささか力が強い。強すぎる。呪力操作で出力を上げて、何が何でも離さないというような、強固な意志を感じるもの。一瞬体に力を籠め――ふっと、息を吐くと同時にそれをすり抜けようと、する。エスケープの基礎。
するりと――抜け出せるはずだった。しかし、あろうことか力負けした。硝子に。彼女を侮っているわけではないが、古武術による鍛錬と、呪力操作による実戦では私の方が格段に強かった――はずなのだが。
人体力学をフル活用した、『医学的』なアプローチによる拘束と、反転術式アウトプットを行える精密な呪力操作。そうして私の、なまり切った肉体。すべてが硝子に味方した。
エスケープできず、ただただ硝子に抱きしめられただけの状態で、私はフリーズした。
「硝子ちゃん……。強くなったね」
「雪名が弱くなったんだよ」
「……うむう。今度は、二週間寝てても起き抜けに戦えるくらい、筋肉もりもりにならないと……」
「人体の構造上、どんなに鍛えたって。完全な休止期間が続けば筋肉は衰えるの。それはどんなマッチョでも変わらないっての。諦めな」
硝子はまた、耳元で囁いた。
「何度だって、止めるから。……説明」
「……硝子にはかなわねー……」
そうして私は、硝子に引きずられて。リハビリ室を後にしたのだった。
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