卒業まで残すところ、あと数日。
たった四人の卒業生を送り出すために、無駄に卒業式の練習があるのも、無駄っていうかなんていうか。
任務の合間を縫って、俺も傑も雪名も高専に集まっている。
教室に行っても誰もいなくて。あてどなく校舎をさまよっていると――廊下の窓際で、腕組して外を眺めている雪名がいた。
女が仁王立ちって……。しかし、華奢な体に不釣り合いなほど、強者のオーラを纏った後ろ姿が、やっぱり面白い。
「なに監督してんだよ」
隣に立つと、ん、と雪名は顎で外をしゃくった。
見下ろすと、校庭では傑が七海と灰原に体術の稽古をつけていた。
「おお、さすがは傑。ゴリラみてぇだな」
「ゴリラにゴリラって言われてちゃ、世話ないね」
「はぁ? 俺みたいなイケメンがゴリラなわけねえだろ」
「はぁ? ゴリラはイケメンなんだけど。繊細で平和的で、……ドラミングは『みんな仲良くしようよ!』っていう合図なのよ? それに、繊細過ぎて鬱になるほどだし……。あの腕力にわがままボディ。最強の彼氏じゃない」
うんこ投げつけてくるけど。
飄々とした顔つきで、訳の分からん動物雑学を投げる雪名に、呆れかけて――しかし、にやりとする。それってつまり。
「俺がイケメンだって認めるわけ?」
「私が君をイケメンと認めなかったことはない」
雪名は一瞬言葉を区切った。俺がなにか思うよりも先に、
「顔だけはいい。ヴィジュアル全振り、中身はクズ」
一言で叩ききった。
焚きつけて、しかし一瞬で叩き落されて。……こいつのこういうところって、どうにかなんねーものかよ。口が減らねぇ。俺が言えたことでもないが。
しかしこの余裕の面……。どうにかしてやりたい。
何かないか、とこの特級の脳みそをフル回転させ――思いついた。
「ま、お前は傑が好きだもんな。傑のために、クズの俺なんかに『傑くんを助けてぇ』って泣きついてきたくらいだし」
「……だいっっっぶ語弊のある言い方だね」
雪名は忌々しそうな声を出して、窓ガラスにべたりと張り付いた。
向こう側では、傑が――七海を投げ飛ばした。やっぱゴリラじゃん。
「傑のどこが好きなわけ?」
「…………」
「顔?」
「…………」
「ゴリラみたいなフィジカル?」
「…………」
「性格、」
横から、あの――やる気のない、けれども威力は折り紙付きの、『お散歩パンチ』が飛んできて――無下限にはじかれた。
クソが、と雪名が毒づく。あぶねえ、一瞬、無下限解いてたわ。
「……うるさいよ。黙って監督してな」
そう言う雪名の耳が、少し赤いような気がする。
「……はぁ? お前」
顔を拝んでやろうとして、そっぽ向かれて。それでも追いかけて、肩をつかんで、無理矢理こっちを向かせようと、して。
今度はガードが間に合わず、もろにカーフキックを食らった。こいつ、まじで容赦ねえな、いってぇんだよ!
「っっにすんだてめぇ、」
「私の推し鑑賞タイムを、邪魔をするなって言ってんの!!」
そう言って雪名が逃げる。一瞬だけ見えた、その顔は。まるで茹ったみたいに赤くて。え、まじで? こいつマジか? マジで言ってる?
「お前、マジで、」
「うーーーーるせええええ!! っ追いかけてくんな!!」
「ってめえに傑はやんねーからな?!」
「うううううるせえ、そういうんじゃねえバカ!!」
「そういうんだろうが、そういう顔してんじゃねえか!!」
――結局、どういうわけか撒かれた。逃げ足だけは速いやつめ。
でもまあ、いい。
あいつ、『一生俺の言うこと聞く』って約束したからな。つまりは、そういうこと。
勝ち逃げなんて、絶対にさせねえ。
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