夏油傑離反回避ルートに入ります。 -10- 後編 - 4/5

 卒業まで残すところ、あと数日。
 たった四人の卒業生を送り出すために、無駄に卒業式の練習があるのも、無駄っていうかなんていうか。
 任務の合間を縫って、俺も傑も雪名も高専に集まっている。
 教室に行っても誰もいなくて。あてどなく校舎をさまよっていると――廊下の窓際で、腕組して外を眺めている雪名がいた。
 女が仁王立ちって……。しかし、華奢な体に不釣り合いなほど、強者のオーラを纏った後ろ姿が、やっぱり面白い。

「なに監督してんだよ」

 隣に立つと、ん、と雪名は顎で外をしゃくった。
 見下ろすと、校庭では傑が七海と灰原に体術の稽古をつけていた。

「おお、さすがは傑。ゴリラみてぇだな」
「ゴリラにゴリラって言われてちゃ、世話ないね」
「はぁ? 俺みたいなイケメンがゴリラなわけねえだろ」
「はぁ? ゴリラはイケメンなんだけど。繊細で平和的で、……ドラミングは『みんな仲良くしようよ!』っていう合図なのよ? それに、繊細過ぎて鬱になるほどだし……。あの腕力にわがままボディ。最強の彼氏じゃない」

 うんこ投げつけてくるけど。
 飄々とした顔つきで、訳の分からん動物雑学を投げる雪名に、呆れかけて――しかし、にやりとする。それってつまり。

「俺がイケメンだって認めるわけ?」
「私が君をイケメンと認めなかったことはない」

 雪名は一瞬言葉を区切った。俺がなにか思うよりも先に、

「顔だけはいい。ヴィジュアル全振り、中身はクズ」

 一言で叩ききった。
 焚きつけて、しかし一瞬で叩き落されて。……こいつのこういうところって、どうにかなんねーものかよ。口が減らねぇ。俺が言えたことでもないが。
 しかしこの余裕の面……。どうにかしてやりたい。
 何かないか、とこの特級の脳みそをフル回転させ――思いついた。

「ま、お前は傑が好きだもんな。傑のために、クズの俺なんかに『傑くんを助けてぇ』って泣きついてきたくらいだし」
「……だいっっっぶ語弊のある言い方だね」

 雪名は忌々しそうな声を出して、窓ガラスにべたりと張り付いた。
 向こう側では、傑が――七海を投げ飛ばした。やっぱゴリラじゃん。

「傑のどこが好きなわけ?」
「…………」
「顔?」
「…………」
「ゴリラみたいなフィジカル?」
「…………」
「性格、」

 横から、あの――やる気のない、けれども威力は折り紙付きの、『お散歩パンチ』が飛んできて――無下限にはじかれた。
 クソが、と雪名が毒づく。あぶねえ、一瞬、無下限解いてたわ。

「……うるさいよ。黙って監督してな」

 そう言う雪名の耳が、少し赤いような気がする。

「……はぁ? お前」

 顔を拝んでやろうとして、そっぽ向かれて。それでも追いかけて、肩をつかんで、無理矢理こっちを向かせようと、して。
 今度はガードが間に合わず、もろにカーフキックを食らった。こいつ、まじで容赦ねえな、いってぇんだよ!

「っっにすんだてめぇ、」
「私の推し鑑賞タイムを、邪魔をするなって言ってんの!!」

 そう言って雪名が逃げる。一瞬だけ見えた、その顔は。まるで茹ったみたいに赤くて。え、まじで? こいつマジか? マジで言ってる?

「お前、マジで、」
「うーーーーるせええええ!! っ追いかけてくんな!!」
「ってめえに傑はやんねーからな?!」
「うううううるせえ、そういうんじゃねえバカ!!」
「そういうんだろうが、そういう顔してんじゃねえか!!」

 ――結局、どういうわけか撒かれた。逃げ足だけは速いやつめ。
 でもまあ、いい。
 あいつ、『一生俺の言うこと聞く』って約束したからな。つまりは、そういうこと。
 勝ち逃げなんて、絶対にさせねえ。

送信中です

×

※コメントは最大10000文字、100回まで送信できます

送信中です送信しました!