出会って二秒でプロポーズ - 8/13

 そんなこんなの楽しい道中を経て、地元の温泉では無事に疲れを癒すことができた。広くて泉質もよくていい湯だった。
 さすがに挨拶をするのにノーメイクはまずいので、せっかく落としたものを一から化粧しなおして女湯から出る。
 待ち合わせ場所としていた待合室で、村正のことはすぐに見つけることができた――が、彼は地元の人らしいおっちゃん・おばちゃんたちにぞろりと包囲されていた。
「お待たせ、」
 声をかけた瞬間、村正を取り囲んでいたおっちゃん・おばちゃんたちの視線がザッ!! と一斉に向けられ、思わず怯む。なにこれ怖い。
「まぁ~! こちらが噂の村正の嫁?!」
「はぁ、こんなきれいな人つかまえて……。お前もちゃんと人間の男だったんだなぁ」
「これでマサハルさんもルリさんも安心して逝けるな。ちゃんと親孝行したじゃねえか!」
 やいのやいのと騒ぎ立てるおっちゃん連中の輪を脱出して、村正は私の荷物をそっと奪い取ると、それではと頭を下げて歩き出した。あわててそれについて行く。
 背中に向かって、幸せにな~とか、嫁さん泣かせんなよ~とか声がかかった。村正は振り向きもしないが。
「えらく人気者ね?」
「田舎の異端児はこうなるんですよ。付き合っているときりがありません」
「異端児だったのね」
「意図してそう振舞っているつもりはありませんが、結果的に。一応客観的に自己評価できるだけの分別はありますから」
「愛されてるみたいでなによりだわ」

 

 改めて村正宅につき、家族そろっての自己紹介となる。村正のお父さん、お母さん、そうして弟の桑名とその嫁、その息子――。
「ほら、雲くんも挨拶して。はじめまして、って」
 可愛らしいお嫁さんに催促されて、もじもじしながらやってきたのは、ピンクの似合うなんとも可愛らしい男の子。
 お嫁さんの言うところの雲くんとやらは、顔の半分だけ出してこちらを見ている。目が合うと恥ずかしいのか怖いのか、ぴゃっとお母さんの後ろに隠れ込む。けれども恐る恐る、隠れながらこちらを窺う――。もしかしてだけど。もしかしてだけど。
 あんぐりと口を開けて呆然としていると、となりで村正が肩をゆすってゆったりと笑った。すかさずどういうことだ、と背後でこそこそと背中を叩く。村正は笑いまじりに、ひっそりとした声で、
「サプライズですよ」
 言った。まるでいたずらが成功した子どもみたいな笑顔だった。

 ~ここからはダイジェストでお送りします~

「ねえ、お式は挙げるの?」
「今のところ考えてはいませんが、写真くらいは撮ろうと思っています」
「あら、そうなの。だったら写真は是非とも送ってくださいね!」
「もちろんです」
「式は挙げないのか……。そうか……」
「お父さん、最近はいろんな形があるんですから。あの村正が結婚するって言うだけでも喜ばなきゃだめよ。(審神者)さん、本当にありがとう。ちょっと変わってる子だけど、本当にいい子なのよ」
「母さん、それはお義姉さんがよく知ってるはずだよ」
「ところで、村正と(審神者)さんはどうやって知り合ったの? 聞いちゃってもいいのかしら」
「(……どうする?)」
「(大丈夫デスよ)お互い出先で知り合って意気投合し、こういった流れに」
「あらー素敵ね!」
「えー、知り合ってどれくらいで? お義兄さん、そういうのちっとも匂わせないから全然わかんなかったです」
「(……どうする?)」
「(大丈夫デスよ)出会ったのはつい先日です」
「…………」
「…………」
「…………」
「(これはさすがにまずいんじゃないの?)」
「(だから、大丈夫ですってば)」
「なんだか兄さんらしいね。結婚する姿なんて全然想像できなかったけど、こんな風に唐突だからこそ、逆にしっくりくるというか」
「それもそうね~、桑くんの言う通りだわ。ね、お父さん」
「あ、ああ……。まあ今の若い人達は、いろいろあるんだろうな。お互いに納得しているなら、それでいいんじゃないか」
「(すげえ家族だな……)」
「(大丈夫だと言ったでショウ?)」
「なーに雲くん。さっきから(審神者)さんのことじーっと見てどうしたの~?」
「普段は人見知りなのにね。義姉さんのことが好きなのかな」
「っっっべつにすきじゃないもん!」

 

「えー、じゃあ本当にお義兄さんお義姉さん、生まれも育ちも就職先も、なにからなにまでかぶってないんですね。あ、ということアレですか? 元々お義兄さんのファンとか?」
「実はそうなんですけど、そのことを知ったのは知り合った後なんですよ。覆面で活動してるから、素性とかまるで知らなかったし」
「うそ、すごーい! 本当に運命みたいですね。素敵~」
「私も本当に驚いてます。画面の向こうで見ていて、しかも本まで買っちゃって。普通にしっかりとファンしていた相手と、偶然出会えるなんて」
「ということは、お義姉さんもけっこう破天荒な方だったりしちゃうんですね」
「どうでしょうねー」
「そうだねぇ、兄さんが選んだひとだから。それに、あの雲くんが懐いちゃうくらいだから、只者じゃないかもね」
「確かに! 只者じゃないかも。うちの子、人見知りが激しくって。じいじにもばあばにも、慣れるまで半日くらいかかっちゃうんですよ。それなのにお膝の上にまで乗っちゃって……。雲くん、(審神者)お姉ちゃんのこと好きになっちゃったんだね~」
「ちっちがう!! ちょうどいいたかさだからだもん!!」
「huhuhu. 村雲さん、(審神者)さんはワタシのお嫁さんだから渡しまセンよ」
「やだぁ!! むらまさきらい!! あっちいけ!!」
「こらっ! おじさんのこと呼び捨てにしないの!」
「やぁだぁ!!!!」

 

「雲くん、もうねんねの時間だよ。はやく寝ないとあした保育園いけないよ? 雨くんとも遊べなくなっちゃうよ?」
「いくもん!」
「じゃあ寝ないと、明日起きれないよ?」
「………………」
「あの、ご迷惑でなければこのまま一緒に寝ても大丈夫ですよ」
「えっ?! いやでも、……初対面でさすがにそこまでは……」
「……いっしょにねるもん」
「(嫁)ちゃん、義姉さんもこう言ってるしいいんじゃない? 雲くんがここまで懐くのは珍しいし、もしかしたら前世の因縁とかあるかもしれないよ」
「え~なにそれ。まあでも……お義姉さん、本当にいいんですか? もしも迷惑だったらすぐに追い出しちゃってくださいね」
「大丈夫ですよ。じゃ、雲くん。一緒に寝よっか」
「huhuhu. 川の字ですね」
「むらまさはあっちいけー!」
「こら! おじさんに向かってそんなふうに言わないの!!」
「雲くんは本当に、義姉さんのことが大好きなんだなぁ」

 

「雲、元気してたか? ってしてたに決まってるよな。なんだよこのぷにぷにほっぺはよ! か~わ~い~い~」
「…………」
「まんざらでもない、という顔ですね。huhuhu. 伯父であるワタシにも触らせてくれないのに、やはり主にはかないませんね」
「…………の」
「え? なんて?」
「なんでむらまさなんかとけっこんしちゃったの?!」
「うわびっくりした。いきなりおっきい声で……」
「ワタシが相手では不満ですか?」
「…………」
「村雲さん、いいですか。主はすでに私の配偶者になると決まっています。再三言いますが、渡しませんよ」
「やだ!! だめ!!」
「だめと言っても、もう決まったことです。残念でしたね、あと二十年早く生まれていれば阻止できたかもしれないのに」
「や~~~~~だぁ~~~~~!!」
「村正……幼子相手に本気でレスバしないでよ。大人げない」
「主はおれとけっこんするんだもん!!」
「ぎゃー可愛い!! いいよいいよぉ結婚するぅ!!!!」
「なっ」

 

「やだぁ~~いっちゃやだ~~~!! ずっとここにいてよ、ここにすんでよ~~~!!」
「雲くん、わがまま言わないの。またすぐに会えるから、ね?」
「まー本当にこの子は……。(審神者)さん、すごいわね。どんな魔法を使ったの?」
「俺にはこんなに懐いてないのに……」
「やだやだやだやだやぁ~~~~~だぁ~~~~!!」
「激しく胸が痛い……ここから動けない」
「新幹線の時間が」
「雲くん。今度は僕たちが(審神者)さんたちに会いに行こうね。その時は(審神者)さん、とってもきれいなお洋服を着て迎えてくれるからね。その時はみんなでお祝いしてあげようね」
「……こんどっていつ?」
「それは雲くんがどれだけいい子にしてられるかだなぁ。言うことを聞いて、お友達と仲良くして、毎日元気に保育園に行けたら、会いにいけるよ」
「……わかった……」
「(やばいめっちゃ泣きそう)」
「(はじめてのおつかいで泣くタイプですか)」
「……こんど、あいにいくから。だからむらまさとけっこんしちゃだめだよ!! わかった?!」
「分かった、待ってる!!」
「えっ」

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