出会って二秒でプロポーズ - 9/13

 聞くも涙、語るも涙、涙涙の別れを終えて――。
 新幹線の車中、村正は座席に座るなり買い込んだビール缶をぷしっと景気よく開けて、ぐびぐびと煽り始めた。そこまで酒豪という印象はなかったのだが、もしかして好きなタイプ? じゃあ私も飲むか。
 遠慮なくプルタブを起こすと、村正はとん、とビール缶を置いてため息を吐いた。若干不貞腐れたような風情だ。なにごと。
「どした、えべっさん飲みながら不景気な顔して」
「ジェラシーです。あなたは村雲さんに甘すぎる」
 ドン! と効果音の付きそうな勢いと圧で漏らされた言葉に、思わずビールをむせた。この辛口はのどと鼻にクる!!!
「ちょっと……。そんな未就学児のガキンチョ相手に嫉妬とか」
「ええ、見苦しいでしょうとも。しかし同時にひどく安堵しています。村雲さんが未就学児のガキンチョでよかった。彼が同年代であれば危うかったハズです」
「んなこたぁない。村雲は弟みたいなもんだよ」
「あなたは審神者ではないし、我々ももはや刀剣男士ではないのです。この意味が分かりマスか」
 ビール一杯で目つきの据わった村正は、あまり酒に強くないらしい。酔っぱらいながら醜い胸中を吐露するこの男を前に、なんだろう……。体の奥が熱くなった。アルコールのせいではない。だって私は村正ほど弱くないから。
「分かるさ。だからこそ私は今現在、ムラムラしてるんだろう……」
「あの……。本当に理解してマスか?」
「してるっての。あんたが刀剣男士だったなら、こんな感情持ってないってこと」
「……だとしても、言葉選びに気を付けてください。公共の場でそんな」
「じゃあ、きゅんきゅんする」
「それくらいで」
「子宮が」
「それはアウトです」
 かぶせ気味に言ってきた村正が面白すぎて、背もたれにのけぞって笑いってしまう。――刀剣男士変態代表、みたいな村正が下ネタを規制する側にまわるとは。

 

「……ともあれ、あとはうちに挨拶だね」
 食べて飲んでしゃべって。おまけに昨日の気疲れで。うとうとしながら言うと、そうですね、と心地よいトーンの声が返ってくる。
「別に事後報告でもいいんじゃねって思うけど」
「それはいけません」
「意外とそういうとこしっかりしてるよねー。親の庇護下に置かれてる十代の結婚っつーんなら分かるけど、働いて納税してる大人なんだから、別にいーんじゃねって私は思うんだけどね」
「それでも、結婚というのは我々個人の問題ではなく、両家が絡んでくることです。付き合いが深かろうが浅かろうが、家族として縁を結ぶことになるのですから、家族の了承を得るのが筋というものデス」
「こんっ……な非常識な見た目してるくせに、言うことがまっとうすぎて素敵。ギャップ萌え」
「茶化さないでください」
「茶化してないよ、本心だもの。でもまー、うちの家族はハイハイそうですかの二つ返事だと思うよ。まあ、若干父はー……しゅんとするかもしれないけどね。あ、ちなみに姉は日程が合わないから、また今度で。話したらめっちゃ喜んでくれたよ」
「交際ゼロ日婚でも?」
「だがそれがいいだって」
「そうですか。Huhuhu. 準備はばっちりデスよ」
「たのもしい」

 ――このとき、私はまだ知らなかった。まさか、まったくノーマークだった自分の家族こそが、最大の敵だったなんて。

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