それから暫く、髭切の夢はみなかった。
それで体調が劇的に良くなったというわけでもないが、少しずつでも回復しつつある。
安堵しかけていたある日――また、夢に髭切が現れた。
この時は、あまり怖い感じはしなかった。
髭切は、いつも見慣れたようなふんわりとした笑みを浮かべてこちらを見ている。
この際尋ねてみようかと審神者が身構えた時、髭切が先手を打って言葉を紡いだ。
「君は大層愛されているんだね」
そう言って彼は、審神者の頬を撫でる。
髭切の醸し出す優しげな印象から、優美かと思われた手指はしかし、刀を持つ者にふさわしく、節くれだって硬かった。
硬く、そうして熱い(厚い)掌で審神者の頬を撫でながら、髭切は困ったように笑ってみせた。
「さすがに名刀ばかり百余振りを相手に喧嘩する気も起きないから、君のことは諦めるよ」
「……どういうこと?」
「日頃の君の行いと、慈悲深い彼らに感謝しなきゃだね」
そうして夢が終わった。
それが、最後だった。
※コメントは最大10000文字、100回まで送信できます