「ねーさー。主っていつも飾りっ気がないじゃん」
刀剣男士用の詰所に、加州清光と三日月宗近がいる。二口とも机に向かって事務作業中で、報告書の作成に飽いた加州が、三日月へと話題を向けた形だった。
猫背になってたどたどしくキーボードを打っていた三日月だが、加州の言葉を受けて、手を休めてそちらを見る。
「主か? 飾り気はないが、楚々として好もしいではないか」
「悪いって言ってるわけじゃないんだけど、もっと着飾ったらもっと可愛いのになーって思って」
「それは……そうだな。しかしいきなりどうした?」
「この前演練に行って思ったんだけど、主、同年代の審神者の中でも特に質素だなーって。白衣に男袴って、まるで神職みたいじゃん」
「審神者、だからなぁ。あながち間違ってはいないのではないか」
俺は好きだなぁ、と三日月はおっとりとした口調で言う。
「背筋がすっと伸びて、凛とした空気を纏って。主の誠実さを表すようだ」
「俺だって嫌いって言ってるわけじゃないんだけどー。たまには、着飾ったかわいい主を見てみたいなって、」
他愛のないことを話していると、遠くからパタパタと軽い足音が近づいてくる。音の感じから主の到来を察し、二口はぴたりと口を噤んだ。
ほどなくして足音が詰所の前で止まり、控えめにすーっと障子が開かれる。そっと顔をのぞかせた審神者が、加州清光の姿を認めて表情を輝かせた。
「加州! いいところに……あっ、今何してる?」
気遣う審神者に、加州は報告書をさっと横に置いて、暇してた、とさくっと嘘を吐いた。
「ごめんちょっといい……?」
「なになに? 俺でよければ」
手招きされて、加州は喜んで詰所を出て行こうとする。加州を連れ出そうとして、詰所内の三日月に気づいた審神者が軽く手を振る。
騒がしくしてごめんね、という風に謝罪のポーズをとった主に、三日月はこだわりなく笑って返す。
「加州も報告書に飽いたようだからな。気分転換に連れて行ってやってくれ」
正面切ってチクられて、加州が口元をへの字にする。
「報告書、書いてたの?」
じゃあやっぱり、と審神者が改めようとするのを、いいからいいからと加州が背中を押して詰所を出ようとする。障子の隙間から三日月に向けていーっと歯を見せると、加州は行こ行こと主を促した。ぴしゃりと障子が閉まる。
ささやかな反撃に、三日月宗近は声を上げて笑った。
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