第一クール終了から二週間の休養を経て、第二クールが始まる。
今度はわいわいチームとぎすぎすチーム、メンバーは固定のまま、条件を入れ替えての出陣となった。
ここでも興味深いデータがとれた。
元・ぎすぎすチームだった、新わいわいチームの結果は、第一クールの「わいわいチーム」の結果をさらに上回り、本丸内の同一任務での記録を更新――どころか、損耗率や連撃発生回数で歴代一位に上り詰めた。
対して、元・わいわいチームだった、新ぎすぎすチーム。こちらの損耗率は第一クールのぎすぎすチームほどではなかったが、反比例すると思われた真剣必殺率もまた、さほど芳しくはないという結果に。無論、連撃もほとんど発生しなかった。
デブリーフィングでは、「無理矢理ぎすぎすを強いられた」環境が刀剣男士たちに戸惑いやストレスを生じさせた、という実情が見えてきた。
とはいえ、すでに同一戦場、同一メンバーで十戦も戦ってきた仲だ。どういった局面で、どういったふうに動くかが、お互いに見えている。そのため損耗率は低く抑えられた一方で、連携は取れず、かといって真剣必殺を出すほどの窮地にも陥らず、どっちつかずの結果と相成ったわけだ。
「これはこれで面白いデータが取れましたね」
嬉々として呟く一期に、審神者はほんのりと表情を曇らせる。
「まあ確かに……一クール目で仲良しこよししてたのが、急にバチバチやりあえってんだからね。普通は困惑するか」
次の瞬間、一期がなにか言いかけた――ような、気がした。視線を向けると、彼はどこか難しい顔つきをして黙り込んでいる。
「……大丈夫かな」
ぽつりと審神者が漏らすと、一期は長らく考え込んだあと、
「アフターケアを確実に、ですな」
そう返した。
審神者もそれには同意見で、つづく第二クールでのアフターケアは、前回よりも豪勢に、チームでの小旅行をプレゼントしたのだった。
***
旅先から楽しそうな画像や動画を送られ、審神者はほっと安堵の息をつく。楽しんでいるようで何より。
杞憂だったかと思い、かすかな不安をやり過ごすように「いいなぁ」と呟く。仕事はもう少し残っていたが、集中力が途切れた。明日、と自分に言い聞かせてその日は執務室を閉めた。
残業を終えて執務室を出た審神者は、暗い廊下の先、煌々と輝く一画を目にして立ち止まる。
もしかしてと思い詰所を覗き込むと、案の定、自身のデスクで一期一振が端末のキーボードを叩いている姿が目に入った。集中している様子を見てそっと詰所を離れると、近くの休憩所でカップにコーヒーを淹れて持参する。
「お疲れ~。遅くまで頑張ってるね」
差し入れ、とコーヒーを勧めると、そのときはじめて一期は顔を上げた。主の到来にも気づかないとは、恐るべき集中力だ。
「これは主殿。お気遣い、痛み入ります」
「研究?」
ちらりと目に入ったディスプレイには、研究結果をしたためた文章が見えた。実験の第二クールまでが終わって、その成果をまとめているのだろう。
「予想通りなことも、予想以上のことも、様々あって興味深い限りですな」
「第三クールはメンバーを入れ替えるんだよね。どう? 案は出た?」
審神者の問に、一期はふーむと悩ましい声を上げる。
「どこをどう切り取るか、どう張り合わせるか。悩みどころですな」
「妙案はないようね」
頭を抱える一期のデスクは、いつぞや見た時よりもさらにカオスとなっている。積み上げられた資料の山に、走り書きのメモ、膨大なポストイット……。
第一クールのぎすぎすチームでのデブリーフィング、その時の写真が貼ってあるのが目に飛び込んできて、審神者は噴き出しかけた。――審神者の頭で、一期のナニを隠しているアレだ。写真の中の憮然とした自分と目が合い、審神者はそっとその上に資料を置いて蓋をした。
「主殿、なにか妙案はございませんか?」
縋るような目つきをされて、審神者はしばし考え込む。
「そうだねぇ……。まずは現状を分析するとして。今の両チームとも、ちょっと特徴があるかなと私は思ってる」
「と申されますと?」
一期が食いついてきた。
「片方は、巴に鶴丸に蜻蛉切に……鯰尾、篭手切、薬研の編成でしょ。これだと、どこをとっても角が立つところがないかなと思う。言ってみれば、みんな穏健派なの」
「確かに」
「んで、もう片方は歌仙に同田貫、宗三、今剣、石切丸、姫鶴でしょ」
「しかし……こちらも、比較的温和な刀剣男士が多いのでは?」
「いや、宗三や今剣はキレッキレだよ。姫鶴や歌仙は場に合わせられるけど、基本は我が強くて扱いづらい。石切丸は……温和だけど、意に染まない展開だとブチ切れるタイプ。この中で一番クールなのは同田貫だね」
「なるほど……!」
一期は審神者の言をサラサラとメモに取り始める。
「正直、狙って編制したのかなと思ったほどだよ。でも、逆にこのチーム分けで個性が立ってるから、あとはここからいじって、いい感じでシャッフルしちゃえばいいんじゃないかな?」
「いい感じと申されますと?!」
詰め寄ってくる一期に、全部私頼みかよ、と審神者は渋い顔をする。が、審神者自身興味深い研究ではあるため、助言を惜しむという手もない。
「うーん……。今言った、キレッキレ組は引き離すでしょ。我の強い組もそう。無関心とクールも離す。そうすると、あとは、元祖わいわいチームを適当に分けると」
「なるほどなるほど! あとはたやすい作業ですな!!」
一期は目からうろこ、といった様子でつぶやき、部隊編成案をまとめ始める。ああでもない、こうでもない。いろんな組み合わせを考える一期は、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようだ。
微笑ましい反面、懸念がないとも言い切れない。
――第二クール目で、刀剣男士たちのフラストレーションがかなり溜まっているのを、十分に感じた審神者だ。
本当ならもっと休養期間を設けたいところだが、実験の手前条件を変えるわけにもいかず、言い出せないでいる。
「まあでも……。十分に引っ掻き回すんなら、アフターケアだけは確実にお願いね。この研究が刀剣男士間の不和につながるとか、冗談じゃないから」
「それは重々心得ております。主殿、最適な助言まことにありがとうございます」
ディスプレイに向き直った一期に、審神者は頑張れ~と声をかけて詰所から退散した。
二週間の休養期間を経て、最終の第三クールが始まりを迎えた。
期待通りの第一クール、期待とは裏腹だったが新たな発見があった第二クール。そうして、メンバーをシャッフルして臨む第三クールでは、一体どんな発見があるのか。
第三クールの新生わくわくチームでは、第一クールを上回る結果をたたき出し、一期ら在野研究チームの興奮は、最高潮に達した。
つづく、新生ぎすぎすチームでの出陣。――出陣前からプロレスのような茶番も見られ、一期は興奮する一方で、審神者は大丈夫かよと不安しかない。
この出陣では、部隊の損耗や真剣必殺の出現率は過去一を記録し、非常に有益な結果をもたらしたのだが、――それだけでは済まなかった。
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