薄暗い室内に、モニターの光だけが白く輝く。その光を眼鏡のレンズに反射させながら、男の口元がわずかに開いた。
「順調じゃないか。……まだまだ保(も)つな」
満足げな言葉に、それを後ろから眺めていた別の男が、卑屈な笑みを浮かべてみせる。
「もってもらわないと困りますよ。大事な体なんですから」
「なにを仰る。始動するまでに『極力削れ』との仰せではないですか」
白衣の男が、スーツ姿の男に皮肉げに言葉を向ける。スーツの男は、乾いた笑いをもらした。
「それでもまあ、無理は禁物ですよ。あまり負荷をかけすぎると、どこぞの五月蠅いのがしゃしゃり出てきますからね」
「そちらは問題ありません。いえ、そちらの方でなんとかしていただけるでしょうから」
「結構苦労するんですよね、あそこを黙らせるのは」
「我々はただ、研究に邁進するのみです」
まるで他人事のような言葉に、スーツの男はため息を吐いてみせる。
「……まあいいでしょう。そろそろ仕掛けが動き出すときだ。そうなれば、あなた方ももっと動きやすくなるでしょう。頼みましたよ」
「御意」
ほどなくして、スーツの男が姿を消す。静かにドアが閉まると、続いて電子音が鳴り、ここが厳重に管理された部屋であることが伺える。
――本来、関係者以外立ち入り禁止の資料室には、入退室のログが残る仕様となっている。しかし、謎の男の出入りの記録は一切残されていなかった。まるで、初めから存在していなかったかのように――。
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