とはいえ、出来レースの合コンはなかなかの盛り上がりをみせた。
初めは『イズミちゃん』改め和泉守が番狂わせを起こすかと思われたが、明石を除いた男たちは初志貫徹を通して、少しも揺らぐことがなかったのだ。
明石国行は分析する。
自分がそうであるように、和泉守十一は始めから純然たる噛ませ犬でしかなかったのだろう、と。そんな風に納得した明石はしかし、だんだんとそれが間違いであったことに気づいていった。
「イズミちゃん、アレ歌って~」
請われるままに、和泉守は選曲されたものを次々に歌っていく。誰もが知るアイドルグループのアイドルソングに、昔懐かしいヒットソング、めっちゃ盛り上がるタイプのアニソン、合いの手必須のラップ曲、etc……
しかもノリノリで踊りながら歌い、場の空気は最高潮だ。もはや完全に場の空気を掌握し、支配している。見える見えるぞ。ターンテーブルに首から掛けられたデッカイヘッドホンが。
『お前ら盛り上がってますかぁ~~~~‼』
和泉守がマイク越しにがなり、オーディエンスを掻き立てる。男女ともに熱狂的にレスポンスを返す。
『声出てないよねぇ~~~‼ もっと出せるよねェ~~~~‼‼』
さらに煽ると、それにつられてオーディエンスは立ち上がって答えた。軽快でエモいダンスミュージックのイントロが流れ出し、もはやここだけナイトクラブの様相を呈している。
踊り狂う男女、飛び交うレーザー、場の空気は加速度的に熱くさらに熱くなっていく。
――そうか、そういうことだったのか。
明石国行は気づいた。彼女の役割とは、このカラオケ合コンを盛り上げるための宴会部長だったのだ、と。しかも相当な手腕を持っているらしく、こういった場が苦手な明石でさえもちょっとワクワクし始めているほどに。
確かに、これほどやり手のDJイズミと、芸はないがいるだけでなんか面白いという異能を持つ御手杵がいたならば、これほど盛り上がる場もなかっただろう。御手杵は不在だが、しかしそれでも和泉守のスキルが高すぎて、ひとりでも完璧にその役目をこなしているわけなのだが。
自己紹介の瞬間は、実は話の合うタイプかとも思ったものだが、これは間違いねぇ。まずもって仲良くなれねえタイプだわと、明石は強く確信したのだった。
踊り狂うタイプのダンスミュージックから、徐々にアクセルを緩めていくように。気づけばしっとりしたバラードソングが続き、最後に和泉守は完全に沈黙した。
マイクを置くとBGMにいい感じの音楽を流し、彼女は電話で何かを注文した。ほどなくしてジャンボパフェとホットコーヒーが運ばれてきた。
男女四人はいい感じにそれぞれの組み合わせに分かれ、しっぽりと話し込んでいる。和泉守はそれをしり目に、ジャンボパフェにスプーンを通そうとし――明石の視線に気づいてこちらを見た。
「食べる?」
本当はいらなかったが、すでに取り皿によそわれたため断るのもなにかと、明石は不承不承受け取った。思ったより不味くない、というのが率直な感想だ。
無言でパフェを食べている、謎の時間。
そんな中、彼女がポツリと口を開いた。
「明石くんは御手杵くんの代打なんだ」
「はあ、まあ……。御手杵はんがおうちの用事とかで、来れないらしくて。その代わりに」
「ふーん」
和泉守が首を向けて明石の方を見た。
見られた瞬間、思わず明石は視線を外す。不躾なほどのまっすぐさが居心地悪いというか、なんというか。しかしそれにしても、と明石は思う。
正面から見るとますます美少女だ。この場にいる全員、顔面偏差値高めではあるがその中でも群を抜いている。それに加えて勝気そうで、物おじしない。あの盛り上げ力からしても、相当肝の据わっているタイプと見た。
どう考えても一軍女子という感じで、まさか敏腕DJを勤め積極的に場を盛り上げるようには見えない。こういった場では、男が盛り上げて然り、面白かったら乗ってやってもいいけどという態度がふさわしいというものだ(どんな偏見)。
なんや意外と――。そう思いかけた瞬間、
「明石くんは、御手杵くんから何か弱みでも握られてんの?」
ずけっと不躾に過ぎる質問を投げかけられて、なんやこいつと明石は真顔になった。
「……なんですのそれ」
「だって明石くんって、たとえ金積まれたってこんな場には来なさそうじゃん」
ほんまに不躾なやっちゃなと憮然としかけたものの、しかし、彼女の指摘は当たらずとも遠からずと言ったところ。だからまた質が悪い。
「あ、でも。御手杵くんは弱みを握ってるからって脅して従わせるタイプにも見えないから、明石くんが御手杵くんに借りがあるのかな?」
はははっと彼女は軽く笑って名推理を披露してみせる。大正解だ。
ぐぬぬ……となりかけたものの、明石は精一杯の虚勢を張って対抗することとした。
「へぇ、名推理や。コナン君みたいやな」
「どっちかっていうと刑事コロンボかな。子供の頃好きだったせいか、こまかいことが気になると夜も眠れねえんだけど、実際どうなの? なあ答えてくれ」
「じょ、承太郎……?」
いやに凄みを利かせた言い方をされて、明石ははっとした。そうして思わず飛び出た言葉に、あっこれはアカンやつやと思わず口をふさぐ。
そうして二重の意味でぎょっとする。――彼女は人差し指をこちらに向け、どう見ても「あのポーズ」をしているのだ。効果音をつけるならドドドドドド。後ろにごついスタンドが見えそう。
こんなん、こんなんもうっ……! 明石はなにもかもすべてをかなぐり捨てて飛びついた。
「YEAAAH‼‼」
その瞬間、ふたりの心が通い合った。
ピシガシグッグッ
突如として立ち上がり、ファン共通の手遊びネタを披露したふたりに、男女四人は唖然としてそちらを見た――。
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