メンヘラバキバキバカップルな明さに -1- - 3/3

 時間が来てとりあえずその場はお開きとなり、あとは若い者同士で……ということになった。
 すでに出来上がっていた二組は、この後いい時間を過ごすのだろうが――。
 解散間際、幹事♂がそっと明石に耳打ちした。

「明石クン、もしかして……。もしかする?」

 お前彼女いてるのに和泉守さんとも仲良く()なるつもりか? そんなところだろうか。
 そういえばそういう設定になってたな、と明石は内心で面倒くさくなった。とはいえ、彼女いない歴=である事実をまったく親しくない彼に漏らすのも癪だ。

「和泉守はんとはシュミが合うようで」

 とだけ言って意味深に笑ってみせる。別に嘘は言っていない。趣味が合うらしいのは本当だから。すると、うぉいおい……と幹事♂はニヤニヤし明石の腕をこれでもかと言うほどに突きまくり、

「ま、がんばれよ!」

 と、去り際にはそんな激励の言葉をかけ、ホックホクのご様子で意中のあの子♀と連れだって人込みに消えて行った。

「はーやっと終わったね」

 参加者を見送ったあと、和泉守がぽつりと言う。
 このまま何事もなく終わるのか、と明石は落胆とも安堵ともつかない胸中でいると、ふと、隣で彼女がねえと声をかけてきた。

「ファミレス行かない? 甘いものを食べたら、しょっぱいものが食べたくなっちゃった」

 あのクソでかジャンボパフェを食べたのに、さらになにか食べるんか。明石は驚愕したし、彼自身は別になにも食べたい気はしないのだが――しかし、たった今しがた、好みが一致した彼女ともう少し会話をしたい気持ちはある。
 作中のセリフをあんなにも流暢に使うということは、おそらく割と濃いタイプのオタクだろう。一軍女子のなかにもこういうタイプいてるんやな、と明石は珍しく思っている。

「ええですなぁ。ほな、行きましょか」

 二つ返事でそうするところとなった。
 ファミレスにつくと、適当な席に案内された。壁際のあまり目立たないところ。一番角際の奥まったところで、明石は妙に落ち着くのを感じた。

「ドリンクバーとカツとじ定食にしよう。明石くんは?」

 明石がのんびりとメニューを眺めているところ、和泉守は速攻で決めた。

「えっ……あ、じゃあ、ドリンクバーとポテトにします」
「おっけー」

 確認すると、和泉守はまた速攻で呼び出しボタンを押し、店員が来るとすぐさまメニューを伝えた。

「先行くね」

 そう言ってすっと立ち上がり、ドリンクバーの方へと向かっていく。行動のすべてが迅速果断だ。彼女が戻ってくると、入れ替わりで明石がドリンクバーへ立つ。
 いろいろと物色してから、最終的に烏龍茶で落ち着いた明石である。

「明石くんってさぁ、恋人いるの?」

 戻ってきて早々にそんなことを聞かれ、明石はあからさまに目を泳がせた。

「なっ……なんでいきなり、そないなこと」
「居そうでもあり、居なそうでもありって思って。まあ別にどっちでもいいんだけどさ」

 どっちでもいいなら聞くなや。
 思わずそんな言葉が口を突いて――出ることはなく、明石はもやっとしながら烏龍茶をちびりと含んだ。
 それからはしばらくの間、彼女主導で他愛のない世間話をしていた。明石はポテトをつつき、和泉守は定食を食べながら。

「明石くんはジョジョなら何部が好き? 私は二部」
「自分は四部が」
「四部も好きだな。あの日常に潜む恐怖というか、脇役の活躍もすげーいいんだよね」
「それな」

以下、濃いオタクトーク

「えー、明石くんめっちゃオタクだね。ミーム詳しいじゃん。どこに常駐してんの?」
「……vip……」
「っぽいわー、うけるー。私はなんJ」
「J民て」
「明石くんは最初なんJ民かと思ったけど、ちゃんとネイティブ関西人なんだね」
「ネイティブやで」
「私は気を抜くと猛虎弁出そうになって困るよ」
「いややでそんなん」

以下、濃いry

「ねね、一番好きなスレタイなに?」
「なんやそのニッチなネタは。せやなぁ……。『人が真面目な話してる時に天然パーマのやつってなんなの?』」
「あ、自分のこと言ってんの?」
「やかまし。いい感じに収まっとるやろ」
「私はねー、『墓地が無料! 急いで死ね!』かな」
「まさかの不謹慎ネタ」
「笑ってはいけないという緊張感がね、笑いを増幅させるのよ。葬式と一緒ね。泣いてる人もいて、お坊さんが真面目な顔でお経読んでるから笑っちゃいけないっていうのは思ってるんだけど。かえって面白くなる」
「え、和泉守はんもしかしてサイコパスなん?」

以下ry

「倫理の○○先生って、語尾が低くなるでしょ」
「そうですか?」
「柳田国男は国文学者で云々、はーいそれでは今日はここまでにしまーす」
「それ。ある」
「あの語尾の下げ方が怖くて、実はすごくブラックな人なんじゃないかって思ってる」
「あー。倫理の授業といったら睡眠時間か内職の時間ですからなぁ。実は内心ブチ切れてはるのかも」
「あのジャケットの感じとか、若干マフィア感あるよね。逆らったら豚の餌にされるわ」
「コーサノストラか」
「高速道路ごと爆殺とか」
「いやだこの子詳しい」

 オタクたちの会話はひどく弾んだ。
 好きな漫画やアニメ(ニッチなやつ)作品が同じだったり、架空の事象・事物を妄想するのが好きだったり、ネットミームに詳しいタイプのオタクだったり――当初、当たり障りのない会話だったのが、あとからはオタク特有の早口になり大いなる盛り上がりをみせた。
 絶対相容れへんタイプの人、と思っていたのがこんなにも話の分かるオタクだったとは。しかも、周囲にあんまりいーひんタイプの濃い目のオタクだったとは。
 好感度を振り切り、明石はうっすら彼女のことを好きになりかけていた。
 その中で唐突に、

「見かけによらず明石くんもオタクなんだね~。親近感沸くわ。あ、和泉守って呼びにくいでしょ。イズミでもイズミちゃんでも十一でもいっちゃんでも好きに呼んでいいよ、私も好きに呼ぶし」

 などという提案を頂き、明石は勇気を出した。

「じゃ……じゃあ。と、とと……十一はん」

 清水の舞台から飛び降りる覚悟で名前を呼んでみると、

「おっけー。私は明石って呼ぶわ」

 彼女も名前で呼んでくれるのではという淡い期待は、盛大に打ち砕かれた。
 とはいえ、オタク特有の生産性のない会話は時間を忘れるほどに楽しく、気づけば二人は連絡先の交換をしていた。し、なんやかんやで「その後」も存在し、なんとなくいい感じになっていた。

 

つづく

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