コミュニケーションエラーの弊害/おかわり - 2/9

 ソハヤがいくつか他愛のない話題を持ち掛けてくれて、ぽつりぽつりと話すうちに、ようやく審神者は平常心に戻ることができた。そうした中でふと、――きたる正月休み、彼は一体どのようにすごすのかしら、などと考えてみたりもする。
 余談だが。
 時間遡行軍にはお休みというものがないらしく、今こうやっているときでさえもどこかしらで戦いが起きている。そうなると勿論、審神者も刀剣男士も暦通りに休みを取ることはできない――が、いろんな意味でブラックな審神者という職業、離職防止のためにも福利厚生はかなり手厚くなっている。一斉に休みを取ることはできないため、盆や正月などの休暇は本丸ごとに時期をずらして取得する、という取り組みがおこなわれていた。
 暦の上ではすでに新年モードもとっくに終わっているが、彼らの本丸では明日から六日間の正月休みに入る。予定としては初日に忘年会、五日目に新年会を行うことになっている。
 とはいえ、一応本丸全体が休みということになっているが、どうしてもどうにもならない状況になれば、出陣要請が入ることもある。実際、二年前にもそういうことはあった。
 そういえばあの時は、彼の兄弟である大典太光世に出陣してもらったものだ。心底から申し訳なかった……。しかし大典太と言えば、いつぞやのあの事件以来まともに会話をしていないので、また違った申し訳なさと恥ずかしさを感じてしまって気まずい。まったくもってあんな間違いを……穴があったら入りたい、とはまさに。
「どうした?」
 青ざめたり赤くなったりする審神者に、ソハヤは怪訝そうに問うた。いや、なんでもないという声がひっくり返る。いぶかる彼を前に、どうにか、
「……お正月休みはゆっくり過ごしたいね」
 とだけ言葉を紡ぐことができた。ソハヤは一瞬だけ口をつぐみ、次の瞬間、ニヤリとしてそうだなと返したのだった。

 

***

 

「ちょっと寄り道してもいいか?」
 というソハヤの言葉に、いいえという審神者ではなかった。むしろ、寄り道してもっと長い時間を過ごせるならばと、乗り気で返したものだった。
「買い出しをするんだが、座って待っていてくれてもいい。どうする?」
 そんな提案に、ガチの寄り道であることが判明した。審神者が胸の内に抱いた甘酸っぱい寄り道とは裏腹に、ソハヤはどこまでも目的のための寄り道であった。邪魔になるくらいなら――とは思ったが、せっかくデートに来て別行動というのも味気がなく、邪魔にならないならついて行ってもいいか、と声をかけた。こういうところに、彼女の意気地のなさがはっきりと表れている。
 こういう時和泉守あたりなら、あんたも卑屈だなぁくらいのことは言うが、あいにく審神者は和泉守相手に卑屈になることはない。好いた男が相手だから、そうなるのだ。
 控えめな言葉に、しかしソハヤは特に言及することはない。買い物かごをとってあれこれと放り込みながら、
「こうやってると、新婚みたいだな」
 なんてことを言ってのけ、審神者を窒息させるばかりだった。
 窒息して危うく綺麗な川とお花畑をみた審神者であるが、ふと、思うことがある。買い込んでいるものを盗み見るに、思い至ることがあった。買い物かごのラインアップと、明日から休暇であることを考えるに――きっとソハヤは、休日中は部屋に篭ってゆっくり過ごすのだろう、と。彼女も連休前になると、食料やら生活雑貨やらを買いこむので、それがよく分かった。
 意外だった。ソハヤはフットワークが軽く、休日はどこそこ出かけているイメージがあったのだ。
 刀剣男士の休日の過ごし方は様々だが、連休だからと言って羽目を外しすぎる者はほとんどいない。真面目なものはいつも通り節制した日々を送るし、そうでなくとも、急な出陣要請が入ることを想定している者が多いのである。
 実は、本丸のトップたる審神者がほぼほぼ外出しないため、「主はいつ何時たりとも急な出陣要請に備えて、本丸を空けられることがない」と誤解されているが、実際は出不精だから外に出ないだけであったりする。なんなら今日の外出に際しても、久しぶりに余所行きの恰好と化粧をした主を見て、刀剣男士たちは二度見、三度見、四度見と凝視したものだった。
 ソハヤ、今年はお篭りするのかぁ……。
 毎度毎回お篭りして過ごす自分を棚にあげ、審神者はがっかりした。今日の猫カフェが楽しかったから、また一緒にどこか行けたらいいなぁ……などと思っていたのだが。しかし、お篭りお篭りでその時間は尊いものだ。どこぞの眼鏡ではないが、なにもせず働かない時間というのは、最高なのだ。

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