それからほどなくして、風呂の準備ができたと呼ばれる。
くよくよと悩んでも仕方がない。お気に入りの入浴剤を入れて、ほっとしよう。そう思って、風呂場に行く途中に自室に寄り、小物入れから入浴剤のセットを取り出した。
それをお風呂セットの中に忍ばせて風呂場に向かうと、脱衣所ではすでにソハヤが服を脱いでいた。
「先に入る?」
「入らねえのか?」
入るけど、と答えようとして彼の言わんとしていることを理解する。
一瞬照れそうになるが、一緒に風呂に入る以上に恥ずかしいことをした仲だ、ことさら照れるなど道理に合わない。ここで少しだけ、ほんの少しだけ――風呂で変なことしないよね? という疑問が浮かんだ。
ちらりとソハヤを見るが、そこにはいつも通り普段通りの爽やかではつらつとした一見やんちゃそうだが中身はどこまでも好青年……の彼がいる。さすがにあれだけ色々とやった後だ。さすがにあれ以上のことはないだろう。
そう決断し、粛々と服を脱いだ。そうする頃にはすでに、ソハヤは浴室へのドアを開けて中に入ろうとしている。
「入浴剤入れてもいい?」
慌てて声をかけると、ドア越しに手が伸びてくる。ん、と促されて容器ごと渡す。
「液体なんだけど、カップに一杯入れてもらってもいい?」
「了解。うお、すげえ匂い」
「ごめん、臭い?」
「いや、原液ならこんなもんだろ。たまに、あんたからこの匂いがするな」
浴室に足を踏み入れると、ソハヤが洗面器を使って湯を攪拌している。乳白色の色が広がって、甘いようでどこかスパイシーな香りがふんわりと香る。
「高いけど本当に匂いがよくて、お気に入りなの。ソハヤはあんまり……好きじゃないかな?」
最初の反応といい、今の反応といい、なかなか好感触とはいかないようだ。刀剣男士は人間よりも五感がすぐれているため、人間の審神者にとってはいい匂いでも、彼らにとってはそうではないかもしれない。
「いんや。自分からも同じ匂いがするのは勿体ないと思ってな」
「どういう意味?」
「鼻が慣れるとあまり匂わなくなるだろ。あんたからこの匂いがするのが、そそるって話だ」
にんまりと笑ったその顔に、どこかかすかに獰猛な色が見え隠れする。審神者は雰囲気を打ち消すように、パン、と手を叩いた。
「よし、お風呂入ろうお風呂。背中流そうか」
「お、いいね。背中と言わず全身洗ってもらってもいいけどな」
「やだ!」
「あんたの体なら、すみずみまで洗いたいがな」
「それもやだ!」
反抗がてら強めの力でごしごしと背中をこするが、
「あーいいなそれ、気持ちいい」
まったく響かず。ちょっとムッとしていると、肩越しに振り返ったソハヤと目が合った。ものも言わずに細められた目、その目がすでに揶揄している。ぐぬぬ……となりながらも、現状、ソハヤの体を洗い終えないことには自分の体も洗えず、そうして体を洗わぬことには湯舟にも浸かれない。
「もう私、髪洗うから!」
「なんだよもう終わりか?」
「背中は洗ったもん! あとは自分で出来るでしょ」
「はいはい」
呆れたような物言い、これもやはり十分に楽しむような風情がある。審神者はプンプンしながら頭を濡らし、シャンプーを泡立て、髪を洗い始めた。
といって、ソハヤを相手にくだらない怒りは長続きしないし、むしろ怒りが長引くような内容でもない。頭を流してコンディショナーをつけているときには、風呂場に広がる入浴剤のいい香りで、かなり上機嫌にさえなっていた。
「よし、じゃあ今度は俺が背中を流す番だな」
審神者の背後を取ってソハヤが言うのにも、機嫌よく了承を出す。
ソハヤがわしゃわしゃと音を立ててボディソープを泡立て始めた。ボディソープも匂いがよく、更に華やかな気分にさせられる。ほうっと目を閉じて待っていると、ボディタオルとは違う感触が背中に触れた。
「っええ?」
慌てて後ろを振り返ろうとするが、まあまあ、と押しとどめられて前を向かされる。――背中を撫でているのは、どう考えても手の感触だ。ちょっと、と抗議してもやはり、まあまあ、と窘められるばかりで。曇り防止処理が施された鏡ごしに、ソハヤがにやりと笑う。
「あんたの肌は、俺のと違って肌理が細かいだろ?」
「ソハヤの肌もきれいだよ」
「ありがとよ。しかしこの柔らかくデリケートな肌は、手で洗った方がダメージが少ないだろうな」
「いや、私はいつもそれで洗ってるけど」
「んじゃま、今日から素手洗いに変更だな」
「ちょっとソハヤ……!」
強引に押し切られ、まあ背中だけなら……と許していると、生憎背中だけでは終わらなかった。にゅるりと前に回ってきた手が、腹を撫で太ももにまとわりつき、ぬるぬると素肌の上を刺激していく。
「ちょ、ちょっと! 前は! 前はいいから!!」
「遠慮すんな。俺がしてもらいたかったことをあんたにしてるだけだ」
咄嗟にソハヤの手首をつかもうが、泡で滑って中々把持できない。そうこうしているうちに、泡まみれの指が敏感なところをするするとなで、くっと力を込めて押してくる。ぞわぞわと背筋が粟立ち、あわや妙な声が出そうになった。
「やっちょっと……! どこ触って!」
「どこって、鼠経……足の付け根だろ? 足も疲れただろうから、リンパを流してリフレッシュってな」
ぬるりと、指が滑ってお尻側へ動く。大陰唇のふっくらとした部分を指でぷにぷにとされ、審神者は唇を噛んだ。
「っ絶対それぇ……違う!」
「そうか?」
しゃあしゃあと言って、ソハヤは足の付け根に沿って指を動かした。その指遣いは勿論、マッサージを意図するものではなく、あきらかに前戯をするときのそれだ。噛んでいた唇から、うっすらと切ない声が漏れそうになり、だめだめ、と審神者はかぶりを振っていやがった。
「お風呂、入るだけって」
「そんなこと言ったか?」
「でもさっき、いっぱいしたよ……」
「さっきはさっき、今は今だろ」
言うが早いか、その先の反論を奪うようにソハヤは審神者の耳を甘噛みした。ぴりっとしたかと思えば、慰撫するように耳介をなめられて。柔らかな部分をちゅぱちゅぱとしゃぶられて、その音が脳内に反響して、酸欠のようにくらくらした。
「だめぇ……! ここ、お風呂でしょ」
「立っちまったからな」
まったく言い訳にならないことを告げると、ソハヤは背中に熱く硬いものを擦り付けた。右手で足の付け根を、左手で胸を、更に背中から尻にかけてを一物で、それぞれ責められて頭がゆだる。
「だめか? ホントに? ここはだめとは言ってないようだが」
そういってソハヤの手がいったん離れ、シャワーヘッドをつかんだ。左手が温度と水圧を調整し、ちょろちょろと微温水が流れてそこをすっかり洗い流してしまう。直接の接触を避けるように周囲ばかりを撫でていた指が、急に陰裂をこすり、くぽりと入口に潜り込むと――指を更に飲み込もうとするように、とめどなく愛液があふれ出た。
ヤワヤワと中の感触を楽しむように動いていた指が、速さを増して出し入れされる。すでに二本、難なく受け入れて淫猥な水音を響かせている。風呂場にちゅくちゅくと音が響く。自分の下で行われている光景が受け入れがたくて足を閉じそうになるが、閉じたところで手が止まるわけでもなかった。そうやって急速に高みに昇り詰めていく。
呼吸が速くなり、中がぎゅうと収縮し、あと少し。
「っあ……や、だぁ……いく、いっちゃうから……!」
「じゃ、やーめた」
瞬間、ちゅぽんと音を立てて中から指が引き抜かれた。
なんで。咄嗟に肩越しに振り返って見上げると、ソハヤはどこまでも悪い顔つきで見降ろしていた。すげえなこれ、と愛液でべとべとになった指を見せ、審神者が顔を背けると、無造作に足を開かせてもう一度手を伸ばす。
しかし次は入口のところで浅く出し入れされるだけで、緩慢な刺激しかくれない。はしたなく腰が動き、刺激を求めてしまう。かといってその手を掴まえて奥に招き入れるほどの勇気はなく、もじもじと揺れるだけで。そんな中、折り曲げられた指先に秘豆がこすれて、思わず嬌声が漏れた。もう一回。そう思ったとき、
「助平」
耳元で低くささやくのが聞こえたかと思えば、バスチェアから体が浮き、あっという間にソハヤに抱えあげられた。
「えっ……」
片足を抱えられて足を開かされた体勢で、ぬるぬると何かが秘裂をこする。それがソハヤのモノだと気づくのと同時に、一気に貫かれた。抵抗する間もなく、奥まで。逃げようとしたが、腹に回された腕が締め付けて少しも動くことができない。自重でさらにずぶずぶと陰茎が埋まっていく。根本まで埋まって、ようやく止まった。
腹の底から押し上げられるような圧迫感に、息ができない。
「っは……」
背後から聞こえた吐息も、ずいぶん切羽詰まって苦しそうだった。大きな深呼吸が三回ほど聞こえてから、唸るような声が耳元で詫びる。
「……悪い、ナマだ」
――一般的に、刀剣男士と人間で性交渉を行っても、感染症罹患や妊娠の可能性はないと言われている。彼が避妊具にこだわるのは初めての時からであるが、実はそれが初期刀による性教育の賜物であると――知らないのは審神者ばかりだ。(ちなみに初期刀の性教育は、もちろん審神者から)
ともあれ、できないということはお互い分かり切っていることだ。それでも彼がこだわりを見せる姿に、「大事にされている」と思わずにはいられない。
「っ……いいよ、」
肩越しに振り返り、歯を食いしばるソハヤの唇にやんわりと口づけし、答える。するとハッと赤い瞳が見開かれた。近くで見ると色素の薄さが分かるまつ毛、そこから見える血のような赤。平素穏やかなその双眸に、今はただ獣のような獰猛さばかりがある。
「生でも、いいよ……」
「っ……」
殊更ソハヤが歯を食いしばった。そうして、間髪入れずに唇を奪い去る。噛みつくような口付けは性急に深く激しくなり、意識が刈り取られる寸前まで追いやられた。
「……悪い」
低い声が聞こえたかと思えば、再び体が浮いて、立ち上がることとなった。片手ずつ取られて、壁に手をつかされる。動いたことで抜けかかったものが、ぐりっと腰を押されて再び収まる。なんの工夫もないただそれだけの動きに、期待を高められて子宮がうずいた。
「ぅあ……」
「前」
そんな声にぼんやりと従うと――審神者は目を見開いた。顔の前に、鏡がある。水滴で多少見づらくはなっているが、それでもあられもない姿を、ありのままに映し出している。咄嗟に振り返って何か言いかけたが、その瞬間、
「っあ……! あっ、ソハっ、やっ、まだだめっ」
ゆるゆると律動が開始され、逃げ出せなくなる。到底鏡なんぞ見ていられなくて顔を背けるが、そうすると、
「前見てろって」
そっと顎に置かれた手が、位置を固定するのだった。
「やっ……やぁ! だめっ、こんなのっ……んぁっ、ああっ」
「すっげーエロい顔……。こっちも見えたらどうなるんだろうな」
ソハヤは簡単に言うと、ひょいと片足を持ち上げてみせた。結合部があらわになり、それがしっかりと鏡に映りこむ。
「っ……や、これ、だめっ!」
体をねじって制止を求めるが、
「こうするともっとよく見えるな」
感心したような、上ずったような声が耳元でささやき、咄嗟にそちらを見てしまう。――ぱっくりと口を開けたそこが、いっぱいいっぱいになるほどソハヤのものを飲み込んでいる。出し入れされるたびに卑猥な音を立て、扱き上げるさま。愛液で濡れた陰唇や陰茎が、てらてらと光っていかがわしい。
その瞬間、審神者の理性がはじけ飛んだ。
「いやっ……!」
視覚だけで、達してしまった。
「……イッた?」
ささやくように問われ、審神者はかぶりを振った。しかしそんな嘘はバレバレだった。
「じゃあもっとだな」
「ちがっ……」
――そういう調子で、ソハヤが我に返るまで続いた。
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