そんな並々ならぬ努力が功を奏したおかげで、明石はさらに成績を上げ、見事十一と同じ大学への合格を果たした。(学部はちがうが)
これで大学でも十一はんと同じや。
そうしてゆくゆくは……と妄想を逞しくした明石であるが、ここにきてひとつ、思い違いが発覚する。
明石の学部と彼女の学部、キャンパスこそ同一敷地内であるものの、普段メインで使用する学舎が端と端くらい離れていて、偶然(を装って)顔を合わせることはほぼ不可能ということだ。
まさかそんな落とし穴が待っているとは知らず、その事実を目の当たりにした明石はしばし呆然としてしまった。
「そういえば明石、風邪ひいてオープンキャンパス行けなかったって言ってたもんな」
実際に現地を歩いてみたならば、結果は違っていたかもしれない。
真っ白に燃え尽きる明石に、御手杵がどこか気の毒そうに声をかける。
「明石さんのことだから、そこも納得済みかと思ってました」
篭手切もまた、気の毒げな様子で言う。
「あの子、情報系だからバリバリの理系だろ? 周り男しかいねーんだろうな」
気の毒そうにしながらも、御手杵は耳に痛い事実を突きつける。
「でもまあ、生粋の理系男子なら女性に縁遠い人が多いでしょうから、明石さんの敵にはならないのでは?」
援護する篭手切に、
「それを言うなら、第二第三の明石が現れないとも限らないんじゃねえか?」
御手杵は衝力MAXの言葉で対抗する。
和泉守十一という女神との出会いによって人生を狂わされ――華々しく大学デビューを飾り、彼女の隣を歩む男がいない……とは言い切れない。明石国行こそがそうであったように。
「ああああああ、あっかーーーーん!」
明石はファミレスのテーブルをガンッと叩いて立ち上がった。
「そんなん絶対あかん! それだけはアカン……刃傷沙汰なる……」
男子大学生、狂気の果てに無理心中――。新聞の見出しはこんなところか。死んだ魚のようなうつろな目をして呟く明石に、こりゃあまずいなと御手杵はそれ以上の言葉を飲んだ。それと同時に、明石結構ヤバいやつだったんだなと場違いな感想を抱いたりもしているのは、ここだけの話。
見かねた篭手切が、仕方ありませんね……と満を持して登場感を醸し出してそっと立った。
「ならば明石さん。これから何をすればいいか、わかりますね」
「何を……」
呆然と呟く明石に、御手杵もまたソファ席から立ち上がった。
「やることはたったひとつだ、明石」
「骨は拾いますから、思う存分やってください」
「おふたりとも……」
「そうだぞ。生まれたときは違っても、死ぬときは一緒だ」
御手杵がどこぞの誓いのような言葉を持ち出すと、
「それは少し重いです。一緒に死ぬ気まではありません」
篭手切が簡単に水を差した。
「そうかぁ?」
「締まらんなぁ……」
明石が心の底からそんな言葉をもらすと、水をさした張本人がそんなことはありません、と強引に話を元に戻そうとした。
「そうだとしても、明石さんを応援する気持ちは世界中の誰よりも強いと思っています。これだけは負けません」
「だな!」
強いふたりの言葉と眼差しに勇気づけられた明石は、そのまま桃園の誓いの真似事みたいなことをして、決戦へと臨んだ。
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