そんな都合のいいものはない - 4/6

 ぱっちりと目を覚まし、一番に目に入ったのは見慣れた天井。
 そこは自室の布団の中で、下着だけ身にまとった姿で仰臥していた。一瞬訳が分からなくて、あー今日も仕事かいやだな、と思ったものの、次の瞬間には昨晩起こった衝撃の事実を思い出し、呆然とする。
 脱ぎ散らかした服と、体の違和感と、指の間に絡まっていた自分のものではない白銀の髪。長義は言った。待ち受けるのは死だと。
 それなのに、死んでいなかった。
 私は目が覚めてから一番に、長義に文句を言わなければならないと思った。重い体を引きずり、よろよろとしながら長義を探した。重いのほか早く見つかった長義は、仲良しらしい南泉に「珍しく寝不足だ」とか言われていたので、なんとなく気まずくなって、南泉がどこかに行ってから声をかけることにした。

 

「山姥切長義、私は著しく失望しました」
「開口一番何かな、そんなハスキーな声で」

 ハスキーな声の原因は何か。分かっててそういうこと言うところが本当に失望するわ。

「朝早くにぱっちりしっかりと目が覚めたんだけど、どうしてくれるの」

 にらむ私に、長義は飄々として返してみせる。

「健康的な生活習慣をしているようだ。結構結構」
「いやそうじゃなくて。ケガレがどーのこーのあんな偉そうに講釈たれてたのに、効き目なんてなかったじゃん。どうしてくれんの」

 こちとら死ぬほど恥ずかしく申し訳ない思いをこらえ、耐えがたきを耐え忍び難きを忍んであんな行為にふけったというのに。死ぬと分かっていたから受け入れたのに、なんだこれは。
 恥ずかし損ではないか、謝罪と賠償を要求したい。

「長義にわかるかな……分からないと思うけど」
 目が覚めてからの失望感と言ったら――。恨みたっぷりの視線を送りつけてやると、ふむ、と長義はちょっと考えてみせた。
「君は、痛くない・苦しくない・迷惑をかけない死に方を所望している、と思ったが」
「思ったが?」
「昨日一晩で君の生命力を吸い上げて死に至らしめれば、不審死として検死が行われるだろう。かといって死因が判明するわけではないから、いよいよ不審死となって捜査の手がはいる。審神者が死んだとなると、時の政府も黙ってはいないだろうからな。そうすれば、俺はおろか本丸の全員に迷惑がかかるとは思わないか?」

 それは、なんというかわかる。
 確かに長義の言う通りだ。私は考え込む。つまりそれというのは、……なるほど……徐々に毒を盛って体内に蓄積させ結果死に至らしめるように、あれも継続してやることが大事ということか?

「要するに、もっと必要ということ?」
「そうそう。継続は力なり、とも言うからね。君の命はゆっくりと吸い上げていこう、だからその間に君は引き継ぎ資料とやらを用意するといい。そうすればある日、眠るように逝くことが出来るだろう」

 分かったかな、と長義は幼子に言い含めるみたいに私の頭を撫でてから、言って聞かせた。長義が言うならそうなのだろう。
 私は彼の言うことに従った。

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