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現代編 6

 外事室副室長・夏油特級呪術師に下った任務は――M県T町の封印跡の調査。内容は、『古い祠の倒壊後に発見された、呪力反応の精査依頼』。 神話にもまつわる場所柄ゆえ、呪力反応があるのは至極当然だが、そういった報告がある以上調査しないわけにはいか…

現代編 5

 見慣れた校舎と、広い校庭。 じわじわとセミの大合唱がうるさい。――しかしそんな声も届かない、涼しい室内。 卒業前の、最後の夏だった。「傑くん、ホッチキスの針なんて持ってないよねー」 ダメ元で尋ねた識に、雑誌を読んでいた夏油がふと顔を上げ、…

現代編 4

 ――今日という日を、どれだけ楽しみにしていたか。 研究室で緻密に立てられたスケジュールを前倒しして、渋る研究主任と喧嘩して、脅して泣き落としてまで勝ち取った、完全休暇。 実験のための術式行使は、識の心身に大小様々な負担をかける。ひどい時は…

現代編 3

 夏油傑、特級術師にして外事室副室長。 術師としても管理職としても、仕事の出来は非常に良く、どこにも隙がないように見える。しかし一つだけ穴があるとするなら――それは、「遊びを知らない」ということだろうか。 高専卒業後、すぐに特級術師として現…

現代編 2

 呪術総監局 対外戦術局 外部特異事案対策室――通称、外事室。 呪術界の対外リスク管理を一手に担う、最前線の外交・公安組織だ。その業務は多岐にわたり、対呪詛師危機管理、他国・他勢力との情報連携、国内の『異端戦力』管理などがあげられる。よく言…

現代編 1

 夏油傑に脳を焼かれて書き始めた、夏油傑を救いたい一心で書き始めた小説です。夏油生存Ifなので苦手な方はお気を付けを。  ――世界には無数の線が張り巡らされている、と彼女は言った。 因果、因縁、運命。 人と人、人と物、物…

シヴァの見つめる先

【あらすじ】刀剣男士の信頼関係は、戦果に影響を与えるのか。一期一振が立ち上げた研究は、やがて本丸を巻き込む大きな実験となる。成果が積み重なる中、第三クールで起きた“異変”が、すべてを変えていく――。数値では測れぬ「信頼」と「心」の意味を問う…

06:審神者として/刀剣男士として

 ――まるで祈りにも似た、敬虔な響きだった。 陸奥守吉行、と名を呼んだ声。それが、刀剣男士・陸奥守吉行として聞いた、初めての音だった。 初めて目にしたのは、女。パリッとしたスーツに身を包んだ若い女で、その面は緊張と相反する期待とに彩られてい…

05:雨間のひずみ

「ねーさー。主っていつも飾りっ気がないじゃん」 刀剣男士用の詰所に、加州清光と三日月宗近がいる。二口とも机に向かって事務作業中で、報告書の作成に飽いた加州が、三日月へと話題を向けた形だった。 猫背になってたどたどしくキーボードを打っていた三…

04:閉じた世界で

 刀剣男士――。 天下の名だたる名刀・名槍が集うということは、来歴によっては持ち主が主従関係だったり、逆に敵対関係にあったというケースも少なくない。 有名どころでいえば源氏と平氏、信長・秀吉・家康という三英傑の微妙なライン、そうして――旧幕…